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脳卒中それぞれ。リハビリそれぞれ。‥⑥

-初台リハビリテーション病院で出会った“リハビリの人たち”-

間断なく続く“寝言おじさん”の寝言に、病院が何ら対策を講じなかったわけではない。時折悪夢に襲われる“寝言おじさん”には、ベッドから落下する危険もあった。

まず、ベッドサイドまで身体が移動すると反応する特殊なナースコールが敷かれた。スタッフが交代で“寝言対策要員”となる体制もできた。もちろん、夜中に発作に襲われる人もいるので、24時間体制の監視体制は元々整っている。

一声、寝言が響き渡ると、10秒後くらいにはスタッフが駆けつけた。時には暴れる“寝言おじさん”に、1名では対応できないことも多かった。やさしく声を掛け、半覚醒状態になった彼をなだめるのだが、その効果はあまりなかった。なだめる言葉にも妙に論理的に対抗し、次第に怒りに燃えていく“寝言おじさん”は、なかなか手強かった。

やがて、寝言で家族に対して噴出していた憤りは、スタッフに向かうようになっていった。リハビリに前向きになり昼間は親密度を増していたスタッフが、深夜には敵に変わっていくのだった。

そして、“寝言おじさん”は、ある夜ついに証拠写真を撮ることを思いついた。趣味のカメラを奥さんに持ってきてもらい枕元に並べて間もなくだった。

いつもの時間に始まった咆哮に女性スタッフが駆けつけると、フラッシュが連続で光り、「お前か、犯人は!やっぱり、お前か!撮ったぞ!撮ったぞ!証拠を撮ったぞ!」という勝ち誇ったような声が続いた。

しかしそれは、むしろ彼の夜中の蛮行の証拠写真となった。証拠写真を見せながら「もっときれいに撮ってもらいたかったなあ」とからかう“犯人”の女性スタッフに、「被写体の問題じゃないの?」と照れ臭そうに、しかし精一杯の冗談で返している“寝言おじさん”に、もう病院やスタッフへの不信感は感じられなかった。病院側の弛まぬ努力の勝利だった。

それから一ヶ月後くらいに、僕は退院した。“寝言おじさん”は、その半月前に病室を変わっていた。寝言は続いていたが、少し歩けるようになっていた。

‥‥つづく

60sFACTORYプロデューサーKakky(柿本)

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