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介護というコミュニケーション②

野坂昭如氏は、2003年、脳梗塞発症。一時昏睡状態に陥ったものの、幸いにして一命は取り留めたが、舌を巻き込んでしまうために、喋るどころか食事もままならないという後遺症に苦労されたようだ。“婦人公論”(本ではなく、雑誌になっていたことを初めて知った。ちょっとだけ驚いた。公論という概念さえ求められなくなっているのだろう‥)に掲載されている近況と思われる写真では、野坂氏、両手でダンベルを持ち上げてみせている。夫人の介護の成果が充分に窺える、穏やかな笑顔だ。

近年、脳卒中から復帰、という著名人を散見するが、それが症状の重さによって可能であったり不可能であったりすることは、意外と語られていない。復帰を美談として扱おうとするあまり、復帰のための条件が「リハビリのみにあらず」という側面は、無視されているかのようだ。病気を体験すると、社会復帰がたやすいことではないことを実感させられる。もちろん、幸いにして症状が軽かった人、あるいは手当ての早かった人は、きちんと指導を受け、辛抱強く(特に、初期の段階が重要のようだ)リハビリに励めば、社会復帰は充分に可能だ。治療方法やリハビリのノウハウも日進月歩の状況なので、脳卒中=寝たきり、的イメージは払拭すべきであろう。ただ、多くの人が、約束されない希望に向かって、地道なリハビリに取り組みながら暮らしていることを忘れてはならない、と思う。社会から隔離され、忘れられたかのような存在となっていく人は、おそらく数多いと思われるからだ。

初台リハビリテーション病院は、「集団合同合宿所」だと、僕は思う。個別指導に進む一歩前、個別指導を受けるに足る基礎を、みんなで身に付ける、まさに合宿所。一緒に同じ階段を上っていく環境だからこそ、お互い語り合い、励ましあうこともできる。あっという間に駆け上がり、社会復帰していく人もいるが、大多数の人は、前進後退を繰り返しながら、なんとか基礎を身に付け、退院へと漕ぎ着ける。病院にも都合があり、ベッドが空くのを待っている人も数多いので、背中を押されている感があるのは否めないが、それでも基礎は身に付けさせてくれるのだから、「集団合宿所」としては、環境も含め、レベルが高いと思う。

問題はむしろ、退院後、なのである。

退院は、集団生活からの離脱を意味する。リハビリを仕事とだけにもしていられない。病院のシステムの中に組み込まれていた“暮らし”というものとも、向き合っていくことになる。便利で快適だったことの一つひとつに手間と時間がかかったり不可能であることに、否応なしに気付かされる。そして、その一つひとつが同居人の負担になっていくのである。それが、介護というものである。着替えを手伝う、移動時に支える、といった肉体的な介添えのみをイメージしがちだが、そうではない。暮らし全般にわたって一手間二手間増えていく負担、それが介護の実態である。それは、場合によっては収入減をカバーする活動にまで及ぶ。それもまた介護活動の一つなのだ。と、僕は思う。

そして何より、人と人として、改めてしっかりと向き合った暮らしになる。ならざるをえない。効率よく、負担少なく、かつ行き届いた介護。すなわち、要介護の人間と健常者の同居生活を生活らしくしていくためには、向き合いながら、心の襞まで理解しあっていかなくてはいけない。留められないカフスを留めて貰う指先の動き一つに表われる感情の変化に気付かなくてはならないし、ストレッチを手伝う時の眉間に表われる身体の状況変化がわからなくてはならない。しかし、それは緊張し神経を張り詰めていなくてはならない、ということではない。緊張は、必ず切れてしまうものである。

「必要とする存在」と相手を相互で認識し、「必要とされている」と自覚しあうこと。すなわち、コミュニケーションが重要なのだと思う。コミュニケーションとは、本来相互の存在認識・存在理解のために行われるもの。介護も、その一環だと言ってしまうと、お気楽すぎるだろうか。

野坂昭如氏夫婦の介護のお話には、さりげなくも深いコミュニケーションが感じられる。ほほえましい。同じ病気を患った者として、心強い。そして、どんな状況になろうとも、問われるのは自分自身の存在だと改めて思わされる。‥‥頑張ってるぞ~~!的介護の話よりも、身近で温かい。

Photo

初台リハビリテーション病院1階の喫茶店。歯医者に行った帰りに、1年半ぶりに珈琲を飲んだ。ここで交わした様々な会話が、茫洋と頭を横切った。神妙な気持ちになった。

60sFACTORYプロデューサーKakky(柿本)

60sFACTORY活動日記は、こちら。

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