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百貨店、驚きの取引条件とその変遷

1975年、僕はVANもアイビーも知ることなしに、VAN(株式会社ヴァン・ヂャケット)に入社した。後でわかったことだが、縁故採用のみだったVANが一般公募での大卒採用に踏み切って、まだわずか3年目のことだった。その年、全国で約180名(くらいだった?)の大卒が採用され、VAN社員の総数約2400人、その歴史上最大となっていた。

VAN99ホールでの入社式には、出身大学名と名前の書かれた札を胸につけた、東京勤務の新入社員が集められ、それぞれの所属部署が告げられた。圧倒的に販売部が多かった。最初の間、販売部とは小売店に商品を販売するセクションだと思っていたが、営業部というのも発表されるのを聞くに及びそのセクションの役割がわからなくなった。隣の同期生にこっそりと尋ねた。「販売部って、何するところの?」「派遣社員の部じゃない?」「派遣社員ねえ」。なんのことか、わからなかった。やがて、僕はID(情報室)勤務と告げられた。たくさんの同期生の視線が集中した。申し訳ない、と思った。

試用期間の3ヶ月で、様々なことを学んだ。ファッション用語、業界用語、VAN用語‥‥。販売部のことも理解できた。同期生の言葉どおり、派遣社員のための部。百貨店と月販店(丸井など、クレジットの店)のためのセクションだった。

販売部が必要となる背景は、取引条件だった。その実態に、僕はまず驚いた。最初に聞いた時は、「百貨店はじゃあ、一体何をしてるんですか~?」と、小さく叫んだくらいだった。

掛け率(上代=販売価格に対する、納入価格の比率)が、当時、VANショップで概ね80%(お店の利益が、20%)だったのに対して、百貨店、月販店が72~75%。それも、大先輩からの話によると、当初は80%前後だったのが、取引が拡大するにつれて下がり75~76%になっていたのが、また下がっているのだということだった。しかし、ここまではまだいい。なぜならスケールメリットがあることは確かだからだ。

ところが、驚いたのは、付帯条件の多さと身勝手さだった。ハンガーやラックといった什器類から売り場の装飾まで、一切がVANの負担。さらに、売り場の販売員も。となると、売り場のすべてが、VANの負担だ。それだけではない。広告費用で関連のあることに関する協賛金の供出、販促プランの提案と販促物の提供、海外視察や工場見学への招待も行われているという。さらに、それだけでは終わらない。商品は、シーズンが終わっても残っているものに関しては、返品だ。買取ではないのである。消化売り上げ、という言い方を初めて聞いた。僕は、愕然とした。田舎で、ニュースや記事でしか目や耳にしたことのない百貨店の、それが実態だった。

もちろん、VANも共犯ではあった。「百貨店の中に直営店があると思えばいいじゃないか!」と、疑問を隠さず口にする僕を諭す取締役もいたくらいだからだ。どの売り場でも売り切れていた頃の記憶が言わせていたのだろう。しかし、僕の心はいつも落ち着かなかった。同期生の7割以上が、派遣店員となっていて、厳しい労働環境におかれていたからである。百貨店社員からは、取引業者の人間として扱われ、自分の会社からは、売り上げ確保・向上と商品とデータの管理を厳命される立場。しかも、ほとんどまともな訓練や教習のないままである。自分の会社に行くこともほとんどない、実に中途半端な立場である。内勤の情報セクションに所属となっていた僕は、いつも心苦しく、申し訳ないと思っていた。

6月のボーナス・シーズン。内勤のスタッフも大量に販売応援に駆り出されることがわかった時、とうとう心苦しさが怒りに変わり、人事に抗議に行った。「まず、全員販売部に所属。それから、適性判断や試験制度で内勤を決めていくべきだ」と、主張したが、まあまあと帰された。

それから、3年。倒産に向かっていく間、取引条件はさらに悪化していった。「専門店で稼いで、百貨店に寄付しているようなもんだ」と、僕はよく悪態をついていた。倒産前には、遂に、一部の取引先では、掛け率は70%を割っていた。

ところが、その後数年。百貨店のよさも理解するようになっていた頃。とある著名デザイナーズ・ブランドのディレクションの仕事に携わっている時、VANの頃は、まだいい時代だったんだ、と痛感させられることがあった。

重衣料(スーツやジャケット、スラックス)は、買取で掛け率60%を切って取引している、という話を耳にしたのだ。もちろん、販売員も付けて、だ。

                                      ‥‥つづく

60sFACTORYプロデューサーKakky(柿本)

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