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島根県益田市の憂鬱

僕は、島根県益田市の出身である。小学校6年生と中学3年間を益田市横田町で過ごし、高校入学と同時に、益田市染羽町に引っ越した後、矢の羽を染める職人たちが住んでいたという、細い路地に小さな家が軒を連ねる一角で、高校の3年間を暮らした。しかし今は両親もなく、その実家も他人の手に渡り、帰るべき場所を持たない。今やわずかに、4月の親父の命日とお盆の時期(と言っても、混雑を避け7月)に、両親たちが眠るお墓にお参りするために帰省するのみ。定宿を益田サンパレスという萩・石見空港近くのホテルに決め、空いた時間に同級生の車で市内をあちこち走り抜けている程度である。

かつて、日本全国の地方都市がそうであったように、益田の賑わいの中心は、駅の近くに形成された、狭い旧国道沿いの商店街だった。小さな商店が思い思いに店を構え、夕方にもなると、主婦や子供たちと家路を急ぐ父親たちが行き交い、そこかしこで立ち話に花が咲いていた。やがて、夕餉の支度をする音と匂いに帰心を煽られ、挨拶の声を残して人影は徐々に消えていくのだが、そこに人の営みの温もりはいつも漂っているようだった。

中心部からやや距離のある家から、僕はよく駅前まで自転車で出かけた。電気屋の一角にあるレコードショップでレコードを手にとっては嘆息し、駅前の本屋で読んだこともない本の多さに圧倒された後、ゆるゆると自転車を押しながら家に向かっていると、必ず誰か知り合いに遭遇した。少し面倒ではあったが、人とつながっている安心感は間違いなくあった。

それから40年、益田は激変した。帰省のたびに道路ができていて、そのほとんど混むこともない道路沿いには様々な業種の大型店が次々と出店。それに歩調をあわせるように、駅前の商店街はほぼ消滅。買い物籠片手の主婦やそぞろ歩きの親子の姿など、まったく見かけることもなくなった。

6年前、偶然参加することになった中学の同窓会で、土木関係の仕事を生業としている同級生が半数近くを占め、そのほとんどが1台か2台の土木機械を所有している独立事業者であることに驚いた。洪水の後の治水・復興事業を請け負ったのを機に独立した、という者が多かった。同級生の間で発注者と受注者という関係も生じており、複雑に入り組んだ公共土木事業の裏事情を見る思いだった。仕事で行った沖縄でも感じた矛盾と憤りを禁じえなかった。

自宅から大型店へ。点から点へ、家族だけで、クルマという密室に乗り、新しい道路を利用し、スピーディに移動する‥‥。それが、益田市あるいは地方都市が目指すライフスタイルなのだろうか?それが、文化的な暮らしだとでも言うのだろうか?人と人が肩を触れ合うように接していた町が、やけに懐かしい。そんな思いがしてしまうのは、遠く離れて暮らしていて、たまに覗く程度に帰ってくる僕だけなのだろうか?‥‥などと、いつも帰省のたびに思っていた。

‥‥、先日、続けざまに、益田市の名前をニュースで目にすることとなった。隣接する津和野町での殺人事件と益田市の診療所で発覚した注射器使い回し事件である。

僕は、しばし憂鬱な気分になった。家族単位に分断され、人と人の交感が減少した、一見便利な社会に巣くう病いが、あののどかで穏やかな空気に包まれた町、益田をも侵しているのだと思った。形にならないまま茫漠と頭に棲みついていた嫌な予感が、現実になったのだと思った。

運転手に挨拶をしながら次々と乗車してくる老若男女でかしましい、石見交通のバスの車内が懐かしい。‥‥‥‥。昔に戻ろう、では決してないのだが‥‥。

60sFACTORYプロデューサーKakky(柿本)

60sFACTORY活動日記は、こちら。

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コメント

初めまして、わたしも同感です。
人と人の繋がりがどんどん希薄になって行くのは寂しい限りですよね。
交流の場であったはずの、銭湯でさえも、どんどん失われつつあるし。

日本の古くからの文化を、もういちど見直すべき時なのでは?と痛感しています。

投稿: ずー | 2008年8月12日 (火) 07時34分

ずーさん
初めまして。
せめて心を同じくする人たちと、いい交流を続け、できれば助け合っていきたいですね。小さな輪を無理矢理大きくしようと力むこともなく‥‥。
また、覗いてください。

投稿: Kakky | 2008年8月12日 (火) 23時43分

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