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初めて、エスカレーターに乗った日

僕は、2歳の頃親父と二人で神戸にお袋を訪ねて以来、大学受験まで島根県から出たことがなかった。したがって、18歳以降は、「初めて」だらけ。小さな驚きや感動の、ちょっとお得な日々が続いた。

初めて、エスカレーターに乗ったのは、昭和43年、18歳の時。京都四条河原町の高島屋でのことだった。百貨店という所を見てみたいと、一人で市電に乗って出かけた。僕にとっては、なかなか勇気ある行為だった。

高島屋正面入り口から入ると、目の前にエスカレーターが悠然と動いていた。上がり口には、エスカレーター・ガール。制服に身を包み、膝に白い手袋に包んだ両手を置き、「いらっしゃいませ」と、艶然と微笑みながら(そう、見えた!)一人ひとりにお辞儀をしていた。正面からそのお辞儀に出会い、僕は一瞬ひるんだ。そして、曖昧に微笑みながら、エスカレーターに近寄った。少し胸が高鳴った。次々と顔を出すステップから目を離さず、タイミングを計りながら、足を乗せる前に「いらっしゃいませ」の一言に何か応えなければ、と突然思った。口をついて出てきたのは、「お邪魔します~」の言葉。すぐに、「違うぞ」と思い、顔が赤らんだ。しかし、その小さな興奮のお陰か、エスカレーターには苦もなく乗っていた。手すりに摑まり、ゆっくりと上がっていきながら、「あんな女性と付き合える男もいるんだなあ」と、そっと振り返ると、お辞儀のためにきれいに曲げられた背中が見えた。

ただひたすらエスカレーターを乗り継ぎ、僕の百貨店探訪第一回目は、あっと言う間に終わった。

下りのエスカレーターで一階に到着すると、降りる直前、エスカレーター脇から丁寧な言葉がかけられた。その「ありがとうございました」には、心が篭もっていた。。最初の記憶がまだ残っていた僕は、迎えてくれた女性だと錯覚した。「お邪魔しました」。小さな声で挨拶をしていた。すると彼女は、ひらりと笑顔を僕の方に向け、「何もお構いしませんで‥」と返してくれた。一瞬、足が止まった。そして、ほんわかとした気分で、店を出た。

いい時代だった。

60sFACTORYプロデューサーKakky(柿本)

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