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昭和の家族と進学

60年代、僕の田舎(島根県益田市)では、進学はまだまだ一大事だった。のほほんと暮らしていた僕は、高校進学も大学進学も、自然の成り行きのような感覚。高校までは義務教育かのような感覚で見つめていた。「進学なんかしない。役にも立たないことを勉強するくらいだったら、大工になる」などと宣言してみたりしていたのも、所詮甘え。さしたる思想があったわけではない。ただ、集団就職をしていく同級生がいることを知り、恵まれていることに対する申し訳なさ、差別や区別が中学を卒業する段階で生まれていくことへの疑問や対象の判然としない憤りががあったことも確かだった。僕だけが道を狭められることもない、ということは我慢できないことでもあった。(集団就職した同級生の物語は、後日)

島根県立益田高校入学の時点でも、そんな甘く霞んだ意識が変わることはなかったが、ある事件がきっかけで、平和な時代は中学で終わったんだということを思い知らされ、次第に変化していかざるをえなかった。

僕の卒業した横田中学校は、益田市の中心部益田駅から山口線で一駅、バスだと約30分の所にあった。地方の小都市の郊外、農村地帯の真ん中である。市部の中学校とは、校風も生徒の気質も大いに異なった。競争意識が希薄で暢気、勉学意欲などないに等しかった。

高校1年生の初夏、その意識の差が出た。放課後、竹箒でずるずると掃除をしていると、それぞれ出身校の異なる市部出身の同級生三人に、突然囲まれた。それでなくても同じ中学出身者がクラスにいなくて心細かった僕は、いじめられるものと思い、身を硬め心構えをした。三人は、しかし、やがて僕の前に横に並んで一呼吸し、誰が代表で話すか、譲り合っているように見えた。僕は、いじめではないと確信し、ちょっと横柄になった。「何?何なの?」。詰問口調で、急かした。一人が進み出た。「言っておきたいことがある。この三人が全員、今年中に、お前より成績が上になるからな!」。そう一気に吐きつけると、どういうわけか、勝ち誇ったように足早に消えていった。

僕は、竹箒を胸の前で少女のように握り締め、呆然と彼らを見送っていた。彼らが醸し出している熱気が理解できなかった。高校は違うんだ、と実感した。寂しかった。

それから二年。3年生の春、三人の内の一人Y君から、呼び出された。彼は2年生からは、別のクラスになっていた。体育館横で話すことにした。相談のようだった。

「俺、大学諦めるよ」。第一声に驚いた。広島大学を志望していると聞いていた。「なんで?お前なら受かるよ。なんで?なんで?」。少し、怒りに近いものを感じていた。彼は、困った顔になり、しばし口ごもった。「金がないんじゃ。弟にも進学させたいし‥‥。高校の授業料もちょっと無理になってきてるけえ」。俯いたままだった。「なんだ!そんなことか。そんなことで諦めちゃ駄目じゃ」。咄嗟に、僕はそう言った。彼は、困った顔を上げた。

次の瞬間、どうすべきか、すぐに思いついた当たり前のことを、僕は、口にしていた。「自分でそれくらい稼げばいいじゃない?」。それに次ぐべき言葉を考えながら、僕は思いっきりの笑顔をして見せた。青春映画の演技をしている感覚に、やや面映かった。

60sFACTORYプロデューサーKAKKY(柿本)

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コメント

柿本さん、こんにちは、お久しぶりです。何十年振り、かな?高校の同級生、旧姓大達保子です。覚えていますか?
私は今、千葉県白井市というところに住んでいます。
先ほど川奈部(広瀬)みどりさんから、大畑実さんのご逝去の電話をいただきびっくりしました。とてもお気の毒でしたね。
そのとき、柿本さんのブログの話を聞いて、さっそくアクセスしてみたところ、盛りだくさんの内容のブログで、びっくりしています。時間をかけて、じっくり拝見させていただきたいと思っております。また、みどりさんが、柿本さんと今度一緒に会おうよと誘ってくれました。もうすこし暖かくなったら、面倒見の良いみどりさんがきっとアレンジしてくれるだろうと、期待しています。お会いできる日を楽しみにしていますねっ。

投稿: 伊東保子 | 2013年2月 9日 (土) 16時00分

伊東保子さん

覚えていますよ。ほとんど50年ぶりですね~。半世紀ですよ。
川奈部(広瀬)みどりさんからは、「東京で同窓会やって~~」と言われましたが、彼女にお願いしておけばいいようですねえ。助かります。
機会を作ってもらい、お会いできるといいですね。
みどりさんにプッシュお願いしますね。

投稿: Kakky(柿本) | 2013年2月 9日 (土) 19時36分

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