« 消えていく?!昭和の家族。 | トップページ | 昭和の家族‥‥② »

昭和の家族‥‥①

昭和の家族について考え始めた時、最初に思い出したのは、どういうわけか、J.F.K.の大統領就任演説だった。1961年1月に行われたこの演説の一節、「諸君のために祖国が何をしてくれるかを問うのではなく、諸君こそ祖国のために何ができるかを問う」は、若者の積極的な祖国への関与を鼓舞する言葉として、当時は歓迎され評価された。僕も、深い意味にまで踏み込むこともなく、強大な国の若者たちの意欲を結集しようとしている若い大統領の輝きを、眩しく見上げていた。その言葉が今頃になって、違う様相を帯びて思い出されたのだ。

発展し続ける戦勝国にはびこりがちな国家依存ムードを払拭し、国民(特に若者)のエネルギーに新たな目標を設定しよう、それができるのは自分だ。そうJ.F.K.は宣言したのだろうが、いかんせん彼自身が多くの力への依存から生まれた存在だったため、ニュー・フロンティア・スピリットだけが徒に残り、具体的な行動方針を見出せずに終わった。しかし、その問題意識は正しく先取りをしていた。高度経済成長を経て経済的に豊かになってきた日本は、昭和が終わる頃に同じ問題を抱え始めたとは言えないだろうか。

ちょっとおおげさになってきたので、昭和の家族に戻ろう。

J.F.K.の演説の“諸君”“家族”に置き換え“祖国”“家庭”に置き換えてみるとどうだろう。昭和の家族と平成の家族の違いが見えてこないだろうか。

最初に衝撃を受けたのは、小学校2年生の時だった。

学校のすぐ近く、山へと棚田が連なる坂道の下、県道脇の埃っぽい小さな平屋に住んでいる同級生の女の子がいた。転校生で、一人遊びの多かった僕は、学校帰りに家とは反対方向の棚田の脇道を、時々上の方まで上がって、峡谷を挟んだ反対側の山並みを見るのが好きだった。ぽつんぽつんと山肌に人家があり、夕方になるとどの家からもかまどの煙が立ち昇った。その暖かさが、少し切なく、それでいて懐かしく迫ってくるのだった。

そんなある秋の夕暮れ、生活用水として山から引かれている湧き水の溜まり場に屈んでいるその子を見つけた。「こんばんは~」と遠慮がちに声を掛けた。驚いて振り向いた彼女の目は、僕を捉えてはにかみ、微笑んだ。小さく会釈をして、彼女は元の作業に戻った。大きな釜の中の米を懸命に研いでいたのだ。横では幼い弟が、彼女の手元を覗き込んでいた。僕は、そっと水に指先を入れてみた。切れるように冷たかった。夏休みの転校。もう秋も深まりつつあった。僕は、小さな秘密を共有したような気分だった。

それがきっかけで、時々言葉を交わすようになった。ある日、「お茶飲む?」と言われ、平屋の玄関をくぐった。入る前に、「おばあちゃんがいるからね」と言われていた。「おばあちゃんは、毎日コップ一杯の酢を飲むんだよ」とも聞いていた。「サーカスにいたの?」と冗談で言ったつもりの言葉が、かえっておばあちゃんへの小さな恐怖心に変わっていた。

「こんにちは~」。暗い家の中に入った。開けた扉から差し込んだ一条の夕日におばあちゃんの姿が浮かび上がった。僕は一瞬、たじろいだ。おばあちゃんは、人懐っこい笑顔で「こんにちは~」とかすれた声を返してきた。それを見て、彼女は家の奥へと走るように入っていった。上がりかまちに腰掛け、おばあちゃんと少しだけ話した。心がおばあちゃんとの間の空中で光の中に漂う埃のように浮いていた。

お盆にコップと湯飲みを乗せて、彼女が出てきた。「はい」と湯飲みを渡され、ぬるいお茶を一気に飲んだ。すると、彼女が少し声を大きくした。「おばあちゃん、ほら」。注意を喚起されているのだと気付き、彼女の指先の方を見た。一杯のコップが差し出されていた。彼女がちらりと振り向いた。少し悪戯っぽい微笑があった。「酢だ!」。僕はとっさにそう思った。「いつも、ありがとう」。穏やかな笑みを浮かべながら、おばあちゃんは両手でコップを受け取った。僕は固唾を呑んで見守った。一瞬だった。あっという間に飲み干し、「ありがとう」とコップを孫娘の手に返し、おばあちゃんは幸せそうに微笑んだ。僕は、もう一度生唾を飲み込んだ。

充分に衝撃的な出来事だった。本当に酢だったのか、それはわからない。しかし、もっと衝撃的だったのはその後のおばあちゃんのお話だった。

60sFACTORYプロデューサーKAKKY(柿本)

60sFACTORY活動日記は、こちら。

|

« 消えていく?!昭和の家族。 | トップページ | 昭和の家族‥‥② »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/207308/9131159

この記事へのトラックバック一覧です: 昭和の家族‥‥①:

« 消えていく?!昭和の家族。 | トップページ | 昭和の家族‥‥② »