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蛍光灯、ランニング、カレーライス、あんぱん‥‥③

方言の壁は厚い。いきなり日常会話の些細な一言の前で立ち止まってしまう。しかも、同級生個々の性格よりも、そこで交わされる言葉の方に関心が強いと、同級生は同じ言葉を話す集団にしか見えず、友達作りどころではない。彼らもまた、微妙に異なる言葉を話す闖入者との接し方に戸惑っていた。何しろ、僕の頭は「坊ちゃん刈り」。見渡すと、一人(やがてからかう対象となる多久茂?君)だけだった。興味を抱かれているのはよくわかったが、僕はどう対応していいかわからず、学校から帰ると「本の虫」と化していた。学校の図書館の本を次々と借りて来ては、日曜日でも部屋の片隅で読み耽っている僕を、「外で遊んで来い!」と親父は怒鳴りつけ、時には本を取り上げたりもしたが、渋々外に出た僕はどうしていいかわからず、目の届かない所まで出かけて時間をつぶしてから、そっと帰っていた。

そんな時によく行ったのが、丸木橋。一本の太い丸太が二本のロープに吊るされ渓流の上に架けられただけの橋だが、そんな橋だからこそほとんど渡る人はなく、一人で過ごすには絶好の場所だった。しかも、その上から渓流を覗き込んでいると、時間を忘れることができた。大きくはないが激しい音を立てながら下流へと向かう速い流れを見つめていると、やがて丸太橋は僕を乗せて物凄いスピードで上流へと滑り上がっていく。その不思議なスピード感を味わい、渓流脇の石に目を転じると動いているのは渓流の方だと瞬く間に判明する、その落差も楽しんだ。ぼんやりと「絶対と相対の危うい隙間」を感じていた。

親父の危機感は募った。こいつは、まともなガキに育たない。そう思ったようだ。まず親父は、幼い時に離れ離れになった自分の母親を呼んだ。一緒に住もうというのだ。おばあちゃんは、にこやかに登場したが、すぐに逃げるように親父の弟の許へと去っていった。おばあちゃんとの暮らしに苛立ちを隠さなかった親父は、ちょっとだけ胸を撫で下ろしたように見えたが、面倒な家事とこもりがちな僕に再び向き合うことになり、決心した。こいつは、一旦浜田へ。そして、自分は何とか再婚だ。それから、だ。

越して一ヶ月強。僕は小躍りしながら浜田へ帰った。沢谷へ二度と来ることはないだろうと思った。

   60sFACTORYプロデューサーKAKKY(柿本)

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