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どこへ行く?僕の初恋

中学1年生、ちらりと目が合っただけで始まった僕の初恋は、僕の中では順調に育まれていた。どんどん広がっていく音楽の世界に歩調を合わせるように、彼女と僕の世界は、僕の中で限界知らずに膨らんでいきかねない勢いだった。「ヘイ!ポーラ」を聞くと、僕の腕にすがりじっと見上げる彼女の潤んだ瞳を連想し、「シェリー」を聞くと、明かりの付いている二階の窓の下、「出ておいでよ~」と明るく声を掛ける僕に、すぐに勢いよく開け放たれた窓から向けられる彼女の笑顔を思ったりした。要するに、何を聞いても、何を見ても、そこに男女の出来事がある限り、それは彼女と僕のことだった。僕は、充分に幸せだった。

しかし、中学2年の新学期。僕のささやかな幸せは、消し飛んだ。クラス替えで、僕と彼女は別れ別れになってしまったのだ。

島根県益田市立横田中学校は、純正田舎の中学校とはいえ、僕にとっては大きい学校だった。卒業した豊田小学校は、近隣の小学校では大きい方で2クラス。そこに一つの小学校の全員と、二つの小学校の一部が統合されて、1学年4クラス、約200名。もう一つのクラスがお隣感覚だった小学校とは大違いなのである。しかも、2年生になると、古い平屋の本校舎を離れ、渡り廊下を渡った二階建ての新校舎に移ると言う。同学年であっても、クラスが異なると同級生同士の接点が激減することは間違いない。そんな嫌な予感が、彼女と僕に的中してしまったのだ。

これからの中学生活に希望を見出せなくなっていた新学期。初めての日曜日。ある友達の発案で、友人数名でのお泊り大会が催された。僕を除くみんなが持ち寄ったドーナツ盤約20枚。「悲しき街角」「ロコモーション」「素敵なタイミング」「恋のダイヤモンドリング」などを繰り返し聴きながら、深夜まで他愛もない話に夢中になっていたような気がする。頭にリトルが付く歌手が多いこと、ジョニーという名前が歌手にも歌にもよく出てくること、○○○○&ザ・×××××というグループが増えてるがけど、×××××の一人になるのって嫌だな、といった話題だったようだ。やがて、時間が深夜に及んでくると、話題は身近なものに変わっていき、必然的に女の子の話になっていった。順に告白、ということになり、巧みに逃げる奴、話したくて仕方のない奴が入り混じっている間に、僕の番になった。頑なに口を閉ざしている僕に、「絶対内緒にするから」「男の約束だから」と、全員が迫ってきた挙句、それでも口を割らない僕は、ついに、布団蒸しにされた。苦しい息で、「○組の出席番号××番」と、告げた僕に、ほとんど全員が「あ!▽▽か!」と、僕の大切な彼女の名前を呼び捨てにして叫んだ。白状させられた怒りと、彼女を呼び捨てにされた憤りと、組と出席番号だけでみんなが認識できたことに対する驚きで、僕は、みんなが手を離した布団の中から、しばらく出ることが出来なかった。

そして、当然、約束は守られなかった。翌月曜日、新聞配達で遅刻ぎりぎりで登校した僕は、1時間目の休憩時間からからかわれ始めた。「洋ちゃん、▽▽が好きなんだって」。次々と掛けられる同じ言葉に、僕は、もう僕の初恋は終わった、と確信した。その夜、僕はなかなか眠れなかった。

           60s FACTORYプロデューサー KAKKY(カッキー)

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