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アイビーの奥深さ&テレビが家にやってくる②

アイビーの奥深さ

たった一つのアイテムに過ぎないBDシャツは、楽しそうに働くスタッフの姿を垣間見ただけで“この会社に入ろう”と安易な決断をした世間知らずの学生を、少しだけ社会人にしてくれたようだった。遅刻して到着した入社式の会場VAN99ホールの入り口で、総評系の組合員と人事部員に挟まれた時の大いなる落胆。学生時代同様、ほぼ連日受ける組合への勧誘・オルグの執拗さに、「ああ、ここもか」と萎えかけたささやかな希望。「会社は共同幻想。だからこそ、働く者の意識とエネルギーでいい幻想を共有しなくてはならない」。そう考えていた僕は、VANにさえ持ち込まれている“会社側と労働者”という画一的な対立の構図に辟易としかけていた。BDシャツを巡るストーリーは、そんな状況に一筋の光明をもたらした。VAN社員として何を目指していくか、新入社員にも微かに見えたような気がした。それだけ僕はファッション音痴だったとも言えるが、それだけアイビーは魅力あるものだったとも言える。

BDシャツというイントロからアイビーの主旋律へ。僕はじわじわと踏み込んでいった。たった一枚の洋服に織り込まれた先人の歴史、家族や恋人への愛情や思いやり、袖を通すことへの誇りや使命感。ディテールは単なるデザインではなく、大仰に言うならば人の営みそのものであることに思い至った時、僕には、“ファッションとは、ライフスタイルだ!”ということが少しはわかったような気がした。そして、その年の暮れ、繁忙期の販売応援で小田急百貨店のVANのコート売り場に立った時には、お客様に大いに語るようになっていた。楽しくなっていた。僕は、VAN社員になっていた。

60s-factory.com

テレビが家にやってくる②

1963年、中学1年生の夏休みが終わる頃、突然決断は下された。「テレビ買うことにしたからね」。お袋の一言だった。遂に我が家にテレビがやってくるのだ。連日家計簿を1円単位で付け、それが趣味かのように蓄財。借金だらけの病み上がりの子連れ教師と再婚してから、生活を立て直してきたお袋。一度決断したら思い切りのいいお金の使い方をする。どんなテレビが来るのだろう、と質問したら、「最新のものは故障が多い。2年前くらいに発売されたものがいいだろう。カラーテレビはまだ安定してないが、オリンピックがあるし、買うんだったらカラー」と、明言。馴染みの電気屋さんから、キャッシュで値切って買うと言う。僕は何も言わず、大きくうなずくばかりだったが、興奮を抑えられずに表へと飛び出していた。

天気の良し悪しに関わらず、日中は川で泳ぎ、夕食時に帰宅。掻きこむように食べ終わったら、テレビを開放してくれているお宅に直行。数件の目当てのお宅が所用で閉ざされている夜は、理髪店の奥に鎮座しているテレビを店の外から見せてもらったりした。「それは私です」「私だけが知っている」「若い季節」「お笑い三人組」‥‥。NHKのタイムテーブルは頭に入っていた。同じ目的の友人たちと電柱の光の下で、その日のテレビの話をひとしきりしてから帰ると、遅い時は10時を回っていた。叱責を柳に風と受け流し、一人用の蚊帳を吊って潜り込むと、窓外の月が輝いていた。初恋の人に、心の中で「おやすみ」を言うやいなや眠りに落ちる。そんな日々だった。だからだろう。テレビを購入するに当たって、僕は守らなければテレビが観られなくなるという罰則付きの約束をさせられた。1.一日一時間は、机につくこと。2.日記をつけること。その日記は両親に定期的に見せること。という二つだった。見せる日記に抵抗はあったが、机について日記を書けばいい、というだけの話だと気づき、しっかりと約束した。

決断した後のお袋の行動は早かった。それから二日後、テレビはやってきた。夏休み最後の2~3日は、至福の日々だった。取り交わした約束など忘れたかのように、物珍しさから、親子三人で深夜までテレビ三昧の日々だったのだ。 こうして、僕に浴びせられる情報の量は飛躍的に増えた。僕の生活や意識は、くるくると回転し始めていた。

                                 60sFACTORY プロデューサー Kakky(カッキー)

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